太陽光発電の基礎原理
太陽電池 / 半導体の仕組み
ソーラーパネルの多くにはシリコンが使用されている。シリコンは4つの最外殻電子を保有し、その全てが共有結合を形成している。よって真性な、シリコン結晶は絶縁体である。
シリコン結晶に不純物を導入する「ドーピング」を行うことで、半導体を形成する。N型半導体には自由電子が、P型にはホールが存在する。
PN接合部付近の電子とホールは再結合により失われ、あとにイオン化した「ドナー」と「アクセプタ」が残る。結果、電子とホールが存在しない空乏層(Depletion region)が形成される。
太陽光を吸収すると…
十分なエネルギーを得ることで、共有結合にある電子は、自由電子となり、同時に自由ホールが形成される。
PN接合間の電位差により、自由電子は一方向にしか進むことができない。電子はN型、ホールはP型方向に進む。
自由電子はセル上部の電極を通じて、外部回路を流れ、最終的にはP型側の電極で、ホールと再結合する。これにより、太陽光を電流に変換することができる。
量子ドット太陽電池とは
量子ドット(QD)とは?
量子ドットは、ナノメートルサイズで加工された半導体材料のことで、「人工の原子」とも呼ばれ、電子が内部に閉じ込められている。
実際には電子のECP(化学ポテンシャル)が小さい材料を、よりECPの高い別の材料で囲い込むことで作製する。
この例では、QDにInAsを、中間層にGaAsを使用している。
QDのエネルギー準位
ナノメートルサイズの狭い空間に電子を閉じ込めるのは、井戸型のエネルギーポテンシャルである。電子のエネルギーは、自然原子と同様に量子化されており、固有の状態しか取ることができない。
こうした束縛状態にある電子の状態はシュレディンガーの方程式によって与えられる。 En=(π^2 h^2)/(2mL^2 )∗n^2
中間バンド(IB)の形成
中間バンドとは?
QDを近距離に配置すると、電子はQD間を自由に移動できるようになる。これを「トンネル効果」と呼ぶ。「トンネル効果」により、個々の量子ドット中にある離散化されたエネルギーが一1つの束となって「中間バンド」が形成される。IBSCが高効率を実現する理由は主に2つである。
1. より広範囲の波長の太陽光を吸収できる
- Egよりも小さいエネルギーを、2段階の励起メカニズムにより吸収できる。
- Egのサイズを調整することができ、大きいエネルギーの熱損失を削減できる。
2. 自由電子のエネルギー緩和時間を延長し、より多くの電子が、2段階の励起を受けるようにする。
詳細は次2つのスライドにて。
* IBSC: Intermediate Band Solar Cell (中間バンド式太陽電池)
IBSCの利点 1
~ 広範囲のエネルギーを吸収できる
単接合型太陽電池の限界
現在の単接合型太陽電池の変換効率の理論最大値は「Shockley-Queisserモデル」で与えられ、約31%に留まる。
これには2つの原因がある:
1. 透過損失(約15%)
Egより小さいエネルギーが透過してしまう材料固有の損失
2. 熱損失(約30%)
Egより十分大きいエネルギーが入射した際に、電子とホールが生成されるが、その後非常に短い時間の間に熱となってしまう損失
IBSCはこの課題をどう解決するか
IBにより、自由電子はCBへ直接到達できなくとも、IBを経由することができる。これにより透過損失が削減できる。加えて、QDを作製する材料の組み合わせ、Egのサイズを調整することで、熱損失を削減できる。
* CB: Conduction band, VB: Valance band, IB: Intermediate band
IBSCの利点 2
~ 電子とホールの生存時間を延長する
セルに電圧をかけた場合
電圧をかけることで、電子とホールは空乏層間を動き始める。
物理的には、電子はN側へ移動する。(ホールはP側へ)
IBは何故電子とホールの生存時間を延長できるのか
まずIB内を移動する電子に着目する。
IBにより、電子とホールは隣接する他のQDへと移動することができる。これにより再結合までの時間(エネルギー緩和時間)を遅くすることができる。(i.e. 電位差により電子とホールは別方向に引き離される為、再結合の確率が低くなる)
エネルギー緩和時間が延長されることで、2度目の励起を受けるまでの時間を稼ぐことができる。
おさらい | 量子ドット超格子の動作原理
QDにおける光子エネルギーの変換メカニズム
QDのエネルギーポテンシャルにより、電子は閉じ込められている(VBに存在)。そして光子のエネルギーを受けることで、自由電子が生まれる。
これらを電流として取り出すには2つのシナリオがある。
Scenario 1:
Egよりも大きい光子エネルギーを吸収し、直接回路へと流れ出る。(CBへ到達)
Scenario 2:
光子エネルギーを吸収するがEgよりも小さく(IBへ到達)、近接するQDへと移動しながら、N末端のほうへ進む。そして2度目の励起を受け、回路へと流れでる。(CBへ到達)
* CB: Conduction band, VB: Valance band, IB: Intermediate band
MBE: 分子線エピタキシー
分子線エピタキシー(MBE)は半導体の結晶成長に使われる薄膜成長法である。
MBEシステムの動作原理:
気化させた金属を高真空中で基板表面に蒸着させることで結晶を成長させる。
堆積させる金属材料は蒸発容器(effusion cell)に供給される。各蒸発源を加熱することで蒸発昇華により、分子線として基板上に供給する。この場合では、In+AsがQDを形成し、Ga+AsがSpacerを形成する。
また気体分子の平均自由工程が大きいため、蒸発昇華した分子はお互いに衝突することなく基盤に到着する。
結晶成長の制御
基盤の温度と堆積速度を調整することで、結晶の成長を精密制御できる。これにより原子レベルの組成・ドーピング濃度の設計が可能となる。
結晶成長の制御:
分子線の強度、したがって堆積速度は、蒸発容器の温度によって制御される。成長速度は0.1nm/s以下の精度で制御可能である。
各蒸発容器のシャッターを制御することにより、各層の厚みを原子レベルでコントロールすることができる。
QD作製: S-K成長モード
下地の基板結晶(GaAS)と成長させるQD材料(InAs)の格子定数の差が大きい場合に、S-K成長モードが生ずる。
「Stranski-Krastanov 型」の成長モード:
1.まず基板上に単結晶膜が形成される。これを「濡れ層 / Wetting Layer(WL)」と呼ぶ。
2.WL層状により弾性拘束力が弱まることで、InAs原子がピラミッド型に島状成長をする。
3.原子が新しく表面に結合することにより、ピラミッド(QD)が徐々に大きく成長していく。
岡田研のアプローチ
高効率のIBSC作製には、QDの1. サイズが均一かつ2. 配列が規則的であることが重要である。
1.サイズの均一性
-> ひずみ補償法
InAsの格子定数はGaAsよりも7.2%大きい。したがって、GaAsをSpacerに用いた場合、「ひずみエネルギー」が蓄積し、上層のQDサイズが増大してしまう。岡田研では、QDとは逆向きのひずみを発生させるSpacer(GaNAs)を使用し、一周期ごとに平均のひずみ量をゼロに戻す「ひずみ補償法」を適用している。
2.配列の規則性
-> 高指数面基盤GaAs(311)の採用
基板には従来広く用いられている指数面GaAs(100)の代わりに、表面上の拡散が抑制され、均一なQDが形成されるGaAs(311)を採用している。GaAs(311)B基板は表面自由エネルギーが高いことから、SK成長と同時に、原子の大規模な移動「Mass Transport」が生じ、表面を覆う形で高密度にQDが周期配列する。
現状と今後の展望
IBSCと従来型技術の比較
これはNREL の“Best Research-Cell Efficiency Chart”である。
単接合型太陽電池の変換効率はの理論最大値は「Shockley-Queisserモデル」で与えられ、約31%に留まる。
一方QDは、新興の技術であり、理論最大値は60%を超える。岡田研では、2018年に変換効率を32%まで引き上げることに成功している。
アプリケーション
アプリケーションと将来の展望
システムの効率化は、表面積の削減を意味する。これは軽量化も同時に可能にする。IBSCは「ベンダブル」かつ「軽量化」を必要とする分野での活用が期待される。